第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「こんなにあなたが荒れるのは久しぶりよね?
そんなに誰の手にも、あの王を触れさせたくないのなら、これ以上、皆を困らせないで早く堕転させてしまいなさい」
うっすらと笑みを浮かべながら、頬に触れるように手を近づけてきた玉艶を睨み付けた瞬間、身体が抱き寄せられてジュダルは目を見開いた。
「躊躇うことなんて何もないわ、あの子を黒き王にすることは、前々から決まっていることなのだから。
あの王の器を堕転させれば、ずっとあなたの側に置いておけるじゃない。それがあなたの望みなのでしょう? 」
優しい口調で言われた玉艶の言葉に、心が乱れる。
伝わってきた温もりや、滑らかな衣服から匂い立つ花のような香のかおりが、ハイリアと似ていて、姿を重ね合わせそうになり、ジュダルは慌てて玉艶を突き放した。
「やめろ! 触るんじゃねーよ! 」
「仕方がない子ね……。もう少しだけ、あなたを待ってあげるわ。できるわよね、ジュダル? あなたはいつも、私の言うことを聞いてくれたもの」
瞳を揺るがせるジュダルを見つめ、玉艶はにっこりと微笑んだ。
八芒星の中心に座る自分を取り囲む、覆面の男たちは自分をじっと見下ろして何も言わない。
しかし、無言の中からは、確かな威圧が感じられた。
「さあ、儀式を始めましょう。ちょうど『マギ』が八芒星の中心にいるのですから」
「そうですな」
「随分と予定より、遅くなってしまいましたね」
玉艶の言葉を聞いて、取り囲むように集まっていた覆面の男たちが、ぞろぞろと所定の席へと戻っていった。
円形の広間の中心に、自分だけが一人残される。
── 堕転させるしかないのか……? 俺が……、あいつを……?
「立ちなさい、ジュダル。あなたに宿る暗黒をさらに深めるために」
壇上に戻った玉艶の声がした。
気に入らない感情が渦巻き、睨み見た玉艶は、面白そうに笑みを浮かべていた。