第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
守る者がいなくなった玉艶を睨み付けながら、ジュダルは杖を片手に飛び込んだ。
宙に浮かび、杖先に作り出した巨大な雷撃を檀上へと放つ。
激しい稲光と轟音が響きわたり、石造りの広間が砕けて粉じんが上がったが、晴れた檀上に立つ玉艶は、黒い防壁に守られ無傷だった。
不敵に笑う玉艶に腹が立ち、ジュダルは、さらにルフを集めて頭に浮かぶ命令式を送り込んだ。
上空に作り出した無数の氷の結晶体を、渦巻く風にのせて玉艶へ放つと、細かな氷の刃を含む巨大な竜巻が防壁にぶつかり当たった。
バリバリと割れんばかりの激しい音を響かせるが、防壁はまだ破れない。
苛立ちながら、力を込めて、魔法を複雑に変化させた。
巨大な竜巻を枝分かれさせ、乱雑な風を四方八方から防壁に突き刺すようにぶつかり当てる。
風に含めた無数の氷刃が、削るような音をたて、黒い防壁がミシミシと音をたてはじめた。
ピシリと入った亀裂を、玉艶は嬉々として見つめていた。
「すごいわ、ジュダル。こんなに力を使えるようになって……。でも、まだ甘いわ! 」
玉艶が口元をつり上げて笑ったのが見えた瞬間、ジュダルの視界は、真っ黒な闇に覆われた。
それがぶつかり当たってきた強い波動だとわかり、とっさに防御魔法で体を覆ったが、気づけば後ろへ吹き飛ばされていた。
暗闇が裂けた視界の先に、八芒星の描かれた床が見えた時には、身を包む防壁ごと地面に叩きつけられ、強い衝撃が体を襲った。
防御魔法に守られたおかげで、大した痛みもなく無傷だったが、勢いのついた衝撃をまともに受けたせいで、ひどいめまいがした。
くらくらする頭を持ち上げて、倒れた体を起こした時には、すでに周囲は覆面の男たちに取り囲まれていた。
ずらりと並ぶ、こちらへ向けられた杖先を見て、思わず苦笑する。
「杖を収めください、『マギ』よ」
落ち着いた口調で言っているわりには、物騒なその態度に呆れながら、ジュダルは握りしめていた杖を、懐の服の中にしまいこんだ。
覆面の従者たちが道をあけ、こちらへ歩いてきた玉艶の身なりは少しも乱れがなくて、むかついた。