第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「何をそんなに迷っているの、ジュダル?
あの子は元々、黒き器になる実験が決められている身だったのよ。それに、あの子をこの宮廷まで連れてきた理由は、あなたもわかっていたはずよね?
ソロモンらに選ばれた王の器に、我らの暗黒が適正に宿るかの実験は、あの迷宮を攻略した者で行う予定だった。予定の男ではなく、あの子を連れて来たのはあなたじゃない。
どちらにせよ、あの王を堕転させることは決まっているのよ。あなたもそれを受け入れた上で、側近として側に置いたはずでしょう? 」
「そうだけどよぉ……、こんなに急ぐ必要はねーだろ? 」
「次の計画に取り掛かるには、あの子にそろそろ堕転してもらわないと困るのよ。あの王一人に、時間を費やしてはいられないもの。
もう十分に遊んだでしょう? あなたが迷うなら、私が手を下してもいいのよ? 」
「何言ってやがる……!? 」
「あら、何もおかしなことは言っていないわ。あの子はずっと前から我ら組織の物なのだから、別に堕転させる役目が、あなたである必要なんてないのよ。
早いもの勝ちという風に変えてみましょうか? そしたら、あなたも少しはやる気になるんじゃないかしら? 」
「ふざけんなっ! あいつは俺の物だ! 勝手に手を出すんじゃねーよ! 」
腹が立ち、声を張り上げると玉艶は面白そうに口元をつり上げた。
「ふふふ、あなたがそんなに焦る顔を見ると、余計にあの王を奪ってみたくなるわ。
あんな白くて輝かしい王の器を、真っ黒に染め上げることができたら、きっと気持ちが良いのでしょうね。あの子は、堕転したらいったいどう変わるのかしら? 」
ころころと笑う玉艶の声を聞いたとたん、抑えこんでいた怒りが一気に溢れ出した。
身に宿る漆黒のルフを彷彿とさせ、杖を取り出したジュダルを見て、覆面の従者たちが慌てて彼を押さえ込んだ。
「何をなさるつもりですか!? 」
「落ち着きください! 」
「うるせぇー! 邪魔するんじゃねー!! 」
杖先から湧き上がった突風は、周囲を取り囲んでいた大勢の従者たちを吹き飛ばし、壇上にいる玉艶を守る従者たちをもなぎ倒した。