第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
── あいつのルフに印だと? そんなものあったか?
「ふふ、あなたでも気づかなかったのね? あれは私が触れた時に反応するようにしていたし、普段は目立たないから仕方がないわ」
手に入れたものが、無理矢理奪われたような感覚がした。
ハイリアのルフに傷がつけられていたのだと思うと、無性に腹が立つのを感じて、ジュダルは強く拳を握りしめた。
「あら、気に入らなかった? せっかく、喜ばしいことが起きたというのに……。
『十年計画』の被験体が『マギ』に選ばれ、正統な金属器を手に入れたという事は、すごい快挙なのよ。これは誰も、予想していなかったことだもの。
『十年計画』は失敗に終わった、すでに廃棄された計画。一時的に堕転しうる不穏と絶望を植え付けたくらいでは、被験体が黒き器にならなかったのよ。
どれも中途半端に育った失敗作。回収した被験体は他に使い道がないから、我らの金属器の実験に使ってあげたけれど、どれも化け物に成り下がって出来損ないばかりだったわ」
「化け物……? 」
「あなたも見たことがあるでしょう? 不完全な黒きジンの成れの果て。あれのほとんどは、『十年計画』の被験体よ」
地下の牢獄で暴走するたびに、処分させられていた黒い化け物の姿を思い出し、ジュダルは目を見開いた。
「よかったわね、ジュダル。あなたの大事な王は、金属器を手にしたから、今、生きながらえているのよ。
もしも、彼女が何も手にしていなかったら、あの子は今、彼らのようにジンの実験に使われていたわ」
不気味な姿へと変貌し、無様な最期を遂げた奇怪な化け物が脳裏をよぎり、ジュダルは顔をしかめた。
あんな化け物になる被験体と、ハイリアが同じだなんて思いたくもない。
「大丈夫よ、あの子は『マギ』であるあなたに選ばれた、正統な王の器なのだから。あの子にはもう一つの道が開けたのよ。黒き王となる道がね」
にんまりと笑みを浮かべた玉艶を見て、ジュダルは表情を固めた。