第21章 緋色の夢 〔Ⅵ〕
「『マギ』よ、そうやって、いつまで戯れに時間を伸ばすおつもりですか? ここ数か月、ずっと同じお言葉を聞いております」
「あの王をこの国へ連れてきた当初の予定をお忘れですかな? あの王の器は、我らの黒き王を作り出すべく、宮廷に連れこんだ被験体ですぞ」
「せっかく王族でない、捨てのきく良い器が手に入りましたのに……。一向に堕転しないのでは、我らの研究が進みませぬ」
皆、顔が見えないくせに、声だけはやかましい。
騒ぎ立てるような親父どもの声に腹が立ったせいか、だんだんと眠気が覚めていった。
ここ数日、特に五月蠅いのだ。親父どもが扱っていた被験体がつきたからといって、すぐにあいつを欲しがるのはやめてほしい。
ハイリアを好きにしていいのは、自分だけだ。他の奴に譲ってやる気などない。
「うるせぇーな、あいつをどうしようと俺の勝手だろ? 」
「ですが、『マギ』よ! これ以上、伸ばされては、我らの計画に問題が生じかねません! 」
「あいつは俺が選んだ王の器なんだぜ? 堕転させる時期も俺が好きに決めてやるから、ほっといてくれよ」
「いつまでもそれでは困るのです! 期日をはっきりと申し上げていただきたい! 」
「そうですとも! あの娘の実験は、今後の計画のために必要不可欠なのですぞ! 」
五月蠅く騒ぎだした親父どもにうんざりして、ジュダルはため息をついた。
今まで適当に話を流し、やり過ごしてきたが、だいぶそういう方法も効かなくなっている。
あのまま側に置いておく方が、確実に面白そうなハイリアを、どうやってこのまま側に置いておくかという問題は、結構、深刻な悩みだ。
ガミガミと非難を浴びせる従者らの声に混じって、澄んだ女の笑い声が聞こえて、ジュダルは檀上を見上げた。
檀上に腰かけているのは、華やかな着物に身を包んだ女だ。その女がころころと可笑しそうに笑い声を上げている。
女の声にざわめいていた広間の声がやんでいき、覆面の男たちが少しずつ声の主へと視線を向け始めた。