第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
早朝の鍛錬を早めに切り上げてきたハイリアは、静かに物音のしない部屋の中に入った。
すっきりしない雲に空が覆われているせいか、部屋の中はとても暗く感じる。
寝台をみれば、今日もジュダルは眠っていた。
昨日の記憶は途中で途絶えているというのに、今朝はしっかりと自分の部屋の寝台で目覚めたから不思議だった。
どうやらジュダルが運んでくれたらしい。ご丁寧に掛け物までかけてあったから驚かされた。
それとは逆に、ジュダルは布団もかけずに丸くなって眠りこけていた。
真夜中にふらふらしていたというのに、風邪を引かないだろうか少し心配になる。
寝台に近づいて、ジュダルの隣に腰かければすーすーと寝息をたてているのが聞こえた。
穏やかなその寝顔をみていると、胸がずきりと痛んだ。
結局、昨日はジュダルに何も聞き出せなかった。
ダメなのだ。彼に話を聞こうと思うと急に言葉が進まなくなってしまう。
きっと彼なら、黒いルフのことも、覆面の組織のことも知っているだろうに、ジュダルの口から真実が語られるかもしれないと思うと、恐くなって聞けなくなってしまう。
眠るジュダルの側を、今日も黒いルフは飛び交っていた。
見えてしまうその姿に、胸の中のわだかまりが、また強まった。
―― ねぇ、ジュダル……。あなたがまとうその黒いルフはなに?
宮廷にはびこり、故郷の記憶にも映っていた、そのルフの正体が知りたいの。
でも、あなたからは聞けそうにない。
優しい気持ちを知ってしまったから、恐くなってしまった。
せっかく仲良くなれたあなたとの関係が、崩れてしまうのが恐いと思ったなんて、あなたに知られたら笑われるかな。
それなのに、こんなことをしようとしているなんて、おかしいよね。
「ルフなんて、見えなければよかったのに……」