第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「勝手に染まりやがって……。おまえは今のままがおもしれぇーんだから、変わるんじゃねーよ……」
仮に黒く染め上げるとしても、その役目は俺自身だ。
勝手に他の奴に奪われてたまるものか。
「おまえは、ずっと俺の側にいろよな? 」
無防備に眠るハイリアに言っても何も返ってくることはない。
やかましい声が聞こえないと、変に寂しく感じたからむかついた。
本当に、こいつの側にいると、いつもおかしな気持ちにさせられる。
声を掛けても振り向かれないと、焦るような落ち着かない気持ちになりイライラするのだ。
困らせて泣かせてもやりたくなるが、泣かれると妙に心が痛むし、面倒くさい気分になる。
逆に笑わせてやると、鬱陶しい気がするのに、晴れたような気分になる。
こいつのすべてを奪い、壊してやりたいような衝動に駆られることもあれば、居心地の良いこいつの側に、ただいてやりたいだけのこともある。
いつの間にか、こいつのせいで妙な感情に振り回されているようだから腹が立つ。
散々、こっちが親父どもの手が触れないよう根回ししてやっているというのに、どうしてこいつは、いつも自分の思い通りにいてくれないのだろうか。
「まったく……、わりにあわねーよな」
こちらの気も知らずにぐっすりと眠り込んでいるハイリアをみて、ジュダルは柔らかな笑みを浮かべると、その穏やかな寝顔に手を伸ばした。
どこまでも白く澄んだ頬に触れ、その温かさを確かめながら、その口元に顔を近づけた。
柔らかな唇に重ね合わせると、妙に高揚した気分になったから不思議だった。
―― たかが口づけくらいで、何でこんなに落ち着かねーんだろうな……。
思いながら重ねた唇を離せば、変わらず眠り続けている無防備な寝顔があったから笑えた。
「こんなもんじゃ足りねーけど、もらっといてやるよ」
気づきもしないハイリアの頬を撫で、ジュダルはもう一度だけキスをした。