第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
平原に広がる湖のほとりで、ジュダルは大きくため息を吐いた。
「結局こうなるのかよ……」
側ではハイリアが、気持ちよさそうに寝息を立てている。
朝まで付き合えと言ったのに、隣で「寝ないから」と言いつつ、うたた寝を繰り返していた側近は、いつの間にかぐっすりと眠りについていた。
真っ暗闇の空には、月や星が煌めいていて、当然、朝なんて随分と先の話だ。
朝稽古だの、早朝に起きることを得意とするこいつにとって、夜中まで起きていることは難しいらしい。
絨毯の上に寝ころんでいるハイリアの頬を、つついてみても、引っぱってみても、全く起きる気配がないから呆れた。
「せっかく連れてきてやれば……。おまえ、ここに置いてくぞー? 」
そんな言葉は聞こえるはずもなく、すーすーと穏やかな寝息を立てているから腹が立った。
無防備に横になって眠る姿は、どう見てもこちらを煽っているとしか思えないのだが、そういうことに関しては、きっとこいつは、まだ無自覚だ。
自分が女として見られていることに、気づいてきた様子があるだけ成長しているようだが、こいつの疎さは変わらない。
「おまえってほんと隙がありすぎるよなー……。いつ俺のタガが外れねーとも限らないんだぜ? 」
いつも敏感に反応がみられる首筋を指先で弱くなぞってやれば、眠っていても表情が少し険しくなったから面白かった。
もっと見てやりたい衝動に駆られて、手を伸ばした先に濁りはじめたルフがみえて気が萎えた。
こいつのルフが急激に濁りはじめたのは、今朝からだ。
何があったか言わないが、何かがこいつのルフを濁らせた。
しかも夜になって、それがまた増えている。
白かったはずのルフは、今は黒ずみはじめて淡黒色に染まっている。
親父どもが関わらないように、手を回してやっているというのに、なぜ急に色がよどんだのだろうか。
こいつを黒く染めさせた奴を思うだけで腹立たしい。これだから、こいつからは目が離せない。