第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「ジュダルは、優しいよね……」
やんわりと微笑んで見つめれば、ジュダルが急に落ち着かない様子を見せた。
「なんだよ!? 突然、変なこと言うんじゃねーよ! 」
照れくさそうに頬を赤く染めたから可笑しかった。
「なによ、褒めただけじゃない。確かに、普段は傍若無人で困らされているけれど、ジュダルにも優しいところはあるよね」
「おいっ……、それ褒めてねーように聞こえるぞ! 」
「気のせいよ。……ねぇ、ジュダル」
赤面して戸惑っているジュダルに向かって、ハイリアはまっすぐと彼の眼差しを見つめてみた。
「な、なんだよ? 」
揺らぐ赤い眼差しを見つめながら、思う言葉を紡ぎ出そうとしたけれど、喉のところでつかえた言葉は、それ以上、前には出てこなかった。
彼との関係が崩れてしまう気がして、不安になる。
「……やっぱり、なんでもない! 」
笑顔を作り浮かべて誤魔化した。
「なんだそりゃ? ワケわかんねぇやつだな……」
不思議そうにこちらへ視線を送る彼から、ふわりと浮かんだ黒いルフをみて、ハイリアは胸の中にまた少しわだかまりが溜まっていくのを感じた。
気づかれないように、胸の奥に広がる暗がりにそっと蓋をした。