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【マギ*】 暁の月桂

第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕


「……ここには、よく来るの? 」

「ときどきなー。周りは何にもねぇ草っぱらだし、他に何があるわけじゃねーんだけど、なんか落ち着くんだよな、ここ」

ジュダルから、「落ち着く」なんて言葉が出るのはとても変な感じだった。

こんな静かな場所自体、彼は好き好まない気がするのに、ジュダルは穏やかな表情で湖を眺めていた。

遠くを見つめるその眼差しは、どこか影を帯びた瞳にも見えるから不思議だった。

「なんか意外……、もしかしてジュダルでも悩むことってあるの? 」

「おまえよぉ……、俺を一体なんだと思ってるんだ……? 悩みがあっちゃ悪りぃーかよ? 」

聞き慣れないことを言いながらジュダルが顔をしかめたから、なんだか可笑しかった。

「そうだよね、ごめん。何か安心したかも」

「なんだそりゃ? 」

「ジュダルでも悩んでこういう場所にくるんだと思ったら、なんだか安心したの。私と一緒だなぁって思って! 」

「バカ! おまえと一緒になんてするな! 」

急に焦ったようにジュダルが顔を赤らめたから、可笑しくてハイリアは吹き出してしまった。

「笑うんじゃねーよ! ったくよぉ、ようやく泣き虫じゃなくなったかと思えば、人のことバカにしやがって……。もう機嫌はなおったのかよ? 」

むっとした表情でジュダルは苛立ち見ていた。

「うん、もう大丈夫! 」

にっこりと笑って見せれば、ジュダルの表情がほころんでいった。

「そうかよ。今日のおまえ、煌に来たばかりの頃みてぇーな顔してたんだぜ? また、くだらねーことでも考えてたんだろ? そんなもんさっさと忘れちまえよな!
 おまえが浮かなねぇ顔してると、こっちまで気分が下がるんだからよぉ! 」

柔らかに微笑むジュダルの言葉で、なんとなく彼がこの場所に連れてきてくれた理由がわかった気がした。

はっきりは言わないけれど、きっと落ちこんでいた自分への励ましのつもりだったのだと思う。

その気持ちがうれしくて心が温かく感じるのに、側に飛び交う黒いルフが見えて、複雑な気分が絡み合った。
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