第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
波打ち際の湖のほとりに降り立った絨毯から立ち上がると、ジュダルは手を引いてきた。
「おもしれぇーんだぜ、こいつら! 触ってみろよハイリア! 」
「さわっ!? 大丈夫なのこれ、触って?! 」
「なんでもねーよ! いいから触ってみろ! 」
はしゃぐジュダルに連れられて、青く光る不思議な波の前に座り込むと、ハイリアはおそるおそる手で触れてみた。
少しひんやりとする水の中に手を入れたとたん、淡い青が強く発光しはじめたから驚いた。
水の中で手を動かすほどに、夜行虫は強い光を放つ。
掌から生まれ出た青い生糸の帯が、波に引き込まれてゆるやかに流れていく様は、とても綺麗だった。
「うわぁ、すごーい……」
「おもしれーだろ? これをおまえに見せてやりたかったんだ! 」
言ったジュダルを振り返り見れば、嬉しそうな笑顔を浮かべていたからドキリとした。
「どうして……、私に? 」
「さぁ、なんでだろうな? 俺にもよくわかんねぇーよ」
「わかんないってどういうことよ……? 」
わざわざあんなゲームをしてまで、ここへ連れてきた理由がわからないというのに、当の本人がわからないなんておかしいじゃないか。
「わかんねぇーんだから仕方ねーだろ? おまえをここに連れて来てみたくなったんだ。言っておくけどなー、この場所を教えてやったのはおまえが初めてなんだぜ? 感謝しろよっ! 」
無邪気な笑顔を向けられて戸惑った。頬がほんのりと熱くなる。
そんな秘密の場所を、どうして教えてくれたのだろうと思いながら、嬉しいような気恥ずかしいような気持ちに、胸がざわついていた。
「……ありがとう」
なんだか照れくさくなって、少し視線を逸らしながら言えば、ジュダルは柔らかく微笑んだ。
「本当に、おまえだけなんだからな! 」
恥ずかしげもなく言われた言葉のせいで、鼓動が早まった。
あんまり気恥ずかしくなるようなことを言わないで欲しいと思った。