第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
赤い絨毯が、空高く浮かび上がりながら、夜空の中を移動していく。
湿り気を含んだ冷たい風の感触は、なんだか懐かしかった。
わずかに欠けた月の下に広がっているのは、どこまでも続く草原だ。
月明かりを受けて、つややかな藍色をはなつ草原は、地平線の彼方まで続いている。
キャラバンで何度か来たことがある場所だから知っていた。ここは極東平原だ。
その奥へ、奥へと飛んでいく絨毯は、まだ止まる気配がなく、どこへ向かっているかはわからない。
ジュダルは珍しく静かで、絨毯に乗ってからは座り込む自分のことを、ずっと後ろから抱きしめてはいるけれど、それ以上何もしてくることはなかった。
抱き寄せてくるジュダルの体温と鼓動が背中から伝わってきて、なんだか落ち着かない。
恥ずかしい様な感覚は続いているのに、温かさは心地良くて変な気分だ。
「おまえ、珍しく静かだな」
ジュダルの声が響いてどきりとした。
「……ジュダルこそ静かじゃない。見せたいものって何なの? 」
「言ったらつまんねーだろ? 先の方を見てれば、もうすぐ見えるはずだぜ」
ジュダルが言って、指さした先をじっと見つめてみた。
風でつややかに揺らめく広い草原の先に、わずかに星のような光が見えはじめたから、ハイリアは目を凝らした。
地平線の彼方に現れた青く淡い光。
星とはどこか違うその光が何かと思った瞬間、小さな光が横に伸び、地平線に沿って滲み出したから驚いた。
青い光の一線が、一斉に溢れ出す。
雄大な草原の奥地から、湧き上がるように広がり迫ってきた青色は、楕円の黒い光沢の中に浮かんでいた。
黒くつやのあるお椀のようなくぼみの中で、乱雑に煌めく光の粒子が、帯のように広がりながら揺らめいて、形を変え、渦巻いては消えて、また新たな光の帯を作り出している。
闇夜のような黒に浮かぶ、青い光の帯は空から落ちてきた天の川のようにも見えた。