第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「おまえ、まさか泣いてるのか? 」
「ほっといてよ! 」
「ほっとけるか! おまえが動かねぇと出掛けられねーだろうが! 」
ジュダルの苛立つ声が聞こえて、きっとまた強引に引きずり動かされるのだろうと思い、膝を強く抱え込んだその時、頭の上に軽く何かがのせられた感覚がして驚いた。
ジュダルの手だった。その手が、無造作に頭を撫でてきたから、どきりとした。
髪をぐしゃぐしゃにしてしまいそうな、少し乱暴で雑にさえ感じる撫で方だというのに、大きなその手に撫でられていると、胸の中がほんのりと温かくなってきたから不思議だった。
「こんなことで泣くんじゃねーよ……。なんで俺がこうやって、おまえをいつも待たなきゃいけねーんだ……」
文句を言いながらも、慰めてくるジュダルの声はなんだか優しかった。
彼に頭を撫でられるなんて、なんだか慣れなくてわずらわしい気もするのに、乱れた心がだんだんと安らいでいく。
「だいたいよぉ、もう少し俺を信用しろよな。おまえに強要したことなんてねーだろ? 」
「うそつき……、いつも手を出してくるのは、そっちじゃない……」
あれだけ恥ずかしいことを迫ってきて、どこが強要じゃないのだ。
「それは、おまえが、からかいたくなるような顔をしてるから、いけねーんだよ」
「なにそれ! まるで私がいけないみたいじゃない! ジュダルが変なことばっかりしてくるから、私……! 」
ひどい言いがかりに思わず顔を上げれば、ジュダルは柔らかく微笑んだから驚いた。
いつもと違う雰囲気をもつジュダルに目を見張った。
「そうだ、おまえが悪いんだよ。泣きやがって……、おまえといると、なんでこうもおかしな気分にさせられるんだろうな……」
頬に流れ落ちた涙を、ジュダルに指でぬぐわれた。