第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
すっかり夜も更けた部屋の隅で、ハイリアは灯りもつけずに縮こまって座り込んでいた。
青ざめることも通り越して呆然としている表情は、もはや何かの抜け殻のようにも見える。
『後で迎えにいってやるから、部屋で待ってろ! 』
ジュダルに言われた言葉が、また脳裏をかすめて、とんでもない約束を思い出した。
叫びたいような衝動に駆られながら、ハイリアは顔を赤らめて、落ち着かない様子でぎゅっと膝を抱え込むと、うなだれた。
あんな危うい賭けに乗ってしまった自分に腹立たしさを感じたし、師匠ゆずりの賭け運の悪さにも苛立ちが募った。
こんなことを考えたジュダルもどうかしている。こんなの悪戯の域をとうに越しているじゃないか。
だいたい、最近のジュダルは色々とおかしい。
からかって遊んでくることは前々からあったけれど、こんなに自分に向かってやたらと関係を迫ってくることはなかったはずだ。
不意に抱きついて放してくれなかったり、急に押し倒してきたり、求めてくることもだんだんと激しくなってきて、どうしていいかわからなくなるばかりだ。
あげくの果てに、『おまえには、今夜一晩つきあってもらう』ときた。
もうワケがわからない。なんでこんなにジュダルのことで悶々として悩まなければいけないのだ。
何度も繰り返し同じ事を考えてしまうせいで、余計に恥ずかしくなって顔が火照っていた。
自分もどうかしているのかもしれない。
こんなにいつも自分を振り回して困らせるジュダルのことを考えて、胸がどきどきしているなんて絶対に変だ。
熱をもった頬に手を当てて、ハイリアは大きなため息をついた。
薄暗い部屋に慣れた目の視界にあった陰りが、なんだか急に濃くなったような気がして、ふと前を向けば、仁王立ちして見下ろしているジュダルがいたから、ハイリアは息を呑んだ。
「っひ! 」
奇妙な声を上げて、目を見開き固まったハイリアを、ジュダルは苛立ち見ていた。