第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「……命令に従う方は、嘘もつけないの? 」
迷いながらジュダルを見据えれば、彼は面白そうに口元をつり上げて見せた。
「当然だろ」
言われた言葉に、迷っていた心が定まった。
覚悟を決めよう。ここで迷っていたって仕方がない。いずれジュダルから聞くつもりなら、今の運で決まってもいいじゃないか。
「……私が勝ったら、答えて欲しいことがあるわ」
「おいおい、勝負する前にそんなこと決めちまっていいのか? 」
「いいわ、今はそれ以外思いつかないから。逆にジュダルは私に何を望むわけ? 」
「いいのか、言って? 勝負が余計に恐くなるかもしれないぜー? 」
わざとらしく含みまでをもたせきてから、なんだかイライラとした。
「いいから、もったいぶらないで言いなさいよ! 」
「そうかよ、じゃー言ってやる。俺が勝ったら、おまえには今夜一晩つき合ってもらう」
悪びれもなく当然のように、さらりとジュダルが言い放った言葉が信じられなくて、ハイリアは唖然として言葉を失った。
―― なにいってんの……!?
思わず切っていたカードの束を落としそうになった。
「ひ、一晩って……? 」
「一晩は、一晩だ。朝まで、俺に付き合えって言ってるんだよ」
にやりとジュダルは笑っていた。
言われた言葉の意味が頭の中をぐるぐると回って、とんでもない情景が浮かび上がりそうになり、慌てて頭の中からかき消した。
考えてしまったことが恥ずかしすぎて、カーッと頬が熱くなった。
「なんだよ、おまえが言えっていうから教えてやったのに、ほんとおもしれぇーな奴だな。いつまでもカード切ってねーで、そろそろ始めろよ」
赤面した顔を見てジュダルは、にやついていたから腹立たしかった。
「う、うるさいわね! わかってるわよ! 」
うろたえる心を落ち着かせるように意識しながら、ハイリアはカードを切る手を止めた。
この勝負、どうしても負けるわけにはいかなくなった。こんなことを賭けの対象として考えるほうも、どうかしている。