第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「カードを配当する親は、どっちがやるの? 」
「おまえがやれ。俺がやって魔法がどうだとか、いちゃもんつけられても困るからな」
楽しそうな笑みを浮かべて、ジュダルが言った。
「ほら、さっさと始めろ! どんな勝敗でも文句を言うんじゃねーぞ? 」
「わかってるわよ! ジュダルこそ負けて、不満言わないでよね! 」
ハイリアは、トランプの束をゆっくりと切り始めた。
手にしているカードの束を切り始めると、なんだか緊張してきた。
ポーカーは運に左右されるゲームだ。今回はとんでもない賭けをするというのに、たった一回の勝負で決まると思うと、恐怖さえ感じる。
表情を固めたハイリアをみて、ジュダルがくつくつと笑った。
「なんだ? 急に恐くなったか? 」
「うるさいわねぇ! こんなゲーム、恐くない方がどうかしてるわよ! 」
「そう恐がるなよ、ハイリア。ちょっとした運試しだ。気楽にいこうぜ! 勝てば一つだけ命令できるなんておもしれぇーだろ? おまえは、俺にやらせてみてぇ事が一つもねーのかよ? 」
ジュダルの言葉に、ハイリアの瞳が揺らいだ。
「ほらな、あるんだろ? ゲームに勝ちさえすれば、おまえが考えていることを俺にさせられるわけだ。こんなチャンス滅多にないと思うぜー! 」
楽しげな光を瞳に宿して、ジュダルはにんまりと笑った。
確かにチャンスなのかもしれない。けれど、こんなゲームの勝敗で決めてしまっていいことなのか迷いもあった。
勝者はどんな命令でも一つ出来る。敗者はその命令に従わなければいけない。ならば、どんな質問がきても、敗者は答えなければいけないはずだ。
胸の奥にうずまって聞けずにいる疑念が頭をよぎって、心を惑わせていた。
「……勝ったら、私がジュダルに一つ命令できるのよね? 」
「そうだな。俺が勝てば、おまえに一つ命令できるわけだからなー」
にやにやと意味深な笑みを浮かべるジュダルをみていると、嫌な想像しか浮かんでこなくて身震いした。