第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「い、いひゃい! いひゃいっては! 」
「また、どうせくだらねぇーことでも考えてんだろ? やめちまえ、やめちまえ! 」
面白そうに何度か頬を引き伸ばして、ジュダルはようやく手を放してくれた。
「何するのよ!? 」
じんじんと痛む頬をさすりながら、ハイリアは声を張り上げた。
「おまえが硬い顔してるからだろ? もっとおもしれぇー顔しろよ! 」
にっこりと無邪気な笑顔を浮かべたジュダルに、なんだか胸が痛くなった。
「もう! 仕事中なんだから邪魔しないでよ! 」
「なーにが仕事中だよ。物思いにふける暇があるんなら、そんなもんやめちまえよ。そんなことより、俺とあそぼーぜぇ? 」
ジュダルの指先が首筋をなぞり、ぞくぞくとした感覚が走った。
慌てて身を翻して立ち上がったハイリアは、首筋を押さえて顔を真っ赤に染め上げていた。
「やめてよ、そういうことするの! 」
「さぁーて、どうしよっかなー? 」
にやりと悪戯な笑みを浮かべて、目の前に迫ってきたジュダルに驚いて退けば、すぐに腰のあたりに机がぶつかり、ガタンと大きな音を立てた。
よく考えてみれば、逃げ場のない場所に追い込まれている状況だと気づいて焦った。
「ちょっと……、それ以上、来ないで! 」
胸騒ぎを覚えて、彼の体を押してみたがやはり引いてくれる様子がない。
近づく体を引き離そうと伸ばしていた手を掴み取られてしまい、慌てて勢いよくマゴイを放出させた。
痛みですぐに手を放すと思ったのに、ジュダルが手を放さなかったせいで、強く攻撃したマゴイの波が彼の腕に流れ、赤いミミズ腫れのような痕を刻みこんだ。
傷つけたことに戸惑っているうちに、体は大きく後ろに傾いた。
派手な音と共に背中に衝撃が走り、硬い机の上に押し倒される。
目を見開いたハイリアを、ジュダルは面白そうに見下ろしていた。