第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
逸らしてきた疑念が止まらず湧き上がり、嫌な答えを導き出しそうになって遮断した。
ジュダルは自分にいったい何を隠しているのだ。
関わりを持たせてくれない『銀行屋』には、何の秘密があるのだろう。
断固として介入を許されない神事には、まだ自分が知らない何かがあるのではないだろうか。
「おい、ハイリア!! 」
突然、大きく響いた声にハイリアは体をびくりと震わせた。
振り返ると、いつの間にかすぐ後ろに、ジュダルが眉間にしわを寄せて立っていたから驚いた。
「いったい何回呼ばせる気だ! 何ぼーっとしてんだよ? 」
苛立つジュダルの側を飛び交う黒いルフが見えて、思わず視線を逸らした。
胸に渦巻いたわだかまりが大きくなって、胸を締め付ける。
黒の記憶の奥で、紅蓮の炎の中で闇の女がにたりと笑った。
―― そうだ、聞かなきゃ……。聞かなければ何もわからない……。
もしかしたら、勘違いかもしれないのだから。
こちらを見ているジュダルに視線を合わせて、渦巻く疑念を口にしようとしたとたん、なぜか息が詰まった。
思う言葉がうまく喉から先に出ていかない。
「なんだよ? じろじろ見てきやがって……、変だぞおまえ」
「……ごめん、ちょっと考えごとしてて……」
とっさに笑顔を作り出して誤魔化した。
「おまえが考え事だぁー? 」
不思議なものでもみるように、ジュダルが顔を覗き込んできたから戸惑った。
「……いいでしょ! 考え事ぐらい、私だってするわよ……! 」
落ち着かない気分になって視線を逸らせば、ジュダルに頬をつままれて思いっきり横に引き伸ばされた。