第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
漆黒のルフがゆらりと乱れて、彼女の周りで渦巻いていた。
―― なんで、あのルフが……!?
黒いルフに囲まれたその姿に戸惑う中、なぜか一人の女の姿が重なって見えた。
燃え上がる民家と、そこに倒れていた人の姿を思い出して驚愕する。
皇后と重ねていたのは、祖母と暮らしていた小さな村を滅ぼした、闇のような女の姿だった。
黒いルフを引き連れて歩く皇后が、なぜか故郷を滅ぼした闇のような女とよく似て見える。
ありえないと思いながら、さきほど頬に触れられた時に感じた胸のざわつきが、どこかで覚えのあるような感覚に思えて、ハイリアは動揺した。
燃えさかる紅蓮の炎から現れた女の記憶が脳裏に蘇り、その女から湧き上がっていた闇の姿を思い出して、ハイリアは息を呑んだ。
―― あの闇は……、あの漆黒は……。
記憶の底にあった黒いルフの姿に、胸の中に溜まっていたわだかまりが急速に湧き上がった。
見えてしまった恐ろしい疑念に青ざめて、ハイリアは遠ざかっていく皇后の漆黒の闇を見つめていた。