第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
急に皇后なんていう身分の人と話すことを意識したせいで、緊張して声が上手く出なかった。
「わ、私は、ハイリアと申します。ジュダ……、神官殿の側仕えと武官を兼任しております! 」
慌てたせいで言葉をかみまくり、撃沈した。
ころころと笑われてしまって、恥ずかしくなる。
「緊張させてしまったかしら? あなたが噂のハイリアちゃんだったのね。皆が噂するからどんな子かと思っていたけれど、本当に白いわ。顔を上げてもらえないかしら? 」
言われるまま顔を上げると、目の前に上質な着物に身を包んだ、綺麗な黒髪の女性が微笑んで立っていた。
なんだか白瑛と似ている。聞いていた年齢よりも、ずっと若く見えるし、口元にあるほくろの場所まで同じだったから驚いた。
玉艶は手を伸ばして、自分の髪と頬に触れてきた。
「真っ白でとても綺麗だわ」
頬に手で触れられた感覚に、胸の中が妙にざわついた。
―― あれ……、このかんじ……?
何か引っかかりを覚えるような感覚に、表情が硬くなった。
「赤味のある瞳も綺麗……、どうしてあなたみたいな子が、時々生まれてくるのかしら」
優しく微笑んだその表情が、なんだか恐く思えたから戸惑った。
綺麗なのに、恐いはずがないのに、どうしてこんなに胸の奥がざわつくのだろう。
「皇后様、そろそろ戻りませんと……」
側付きの女官が、皇后に耳打ちした。
「そうでしたね。青舜、白瑛によろしく言っておいて下さい。またお話しましょうね、ハイリアちゃん」
にこりと笑って、玉艶は側仕えの女性と共に宮廷の方へと戻っていく。
敬礼をしてその背を見送っていたその時、ふわりと黒いルフが飛び交ったのが見えて、ハイリアは目を見張った。