第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「それもありますけれど……、すみません。色々と余計なことを考えてしまって……」
「ハイリア殿が、稽古中に考えごととは珍しいですね。緊張するのは仕方がないですよ、初めて戦場に立たれるのですから。
大丈夫ですよ、姫様や私がついていますし、無理に手を汚すようなことをさせるつもりもありませんから」
にっこりと笑顔を浮かべた青舜の優しさが、なんだか少し痛かった。
地面から拾い上げた稽古用の短剣には、自分の顔が映し出されていた。
にび色の光を放つ刃先を不安げに見つめている姿があって、思わずため息が出る。
「ダメですね、青舜さんに気を遣わせてしまうなんて……。むしゃくしゃしている私がいけないのに……」
こわばってしまいそうになる表情で、ハイリアは少しだけ笑って見せた。
「では、少し稽古の方法を変えましょうか? 溜まった鬱憤を晴らすには、思いっきりぶつかり合う方がよいでしょう? 」
練習用の剣とは違う、二対の眷属器を手にした青舜が言った。
風の力を宿す双剣。気を反らしていたら勝てる代物ではない。
「いいのですか、青舜さん? アイムの剣は結構恐いですよ」
「刃先の炎に宿る毒が体に触れる前に、ハイリア殿から剣を奪えばいいのでしょう? また弾き返してさしあげますよ」
穏やかな笑みを浮かべながら、青舜の瞳には、すでに闘争心が宿っていた。
鋭い剣先をこちらへ向ける青舜の姿に、思い切り戦えるのだとわかったとたん、気分が少し高揚してきたから不思議だった。
苛立ちを発散できるとわかって、気持ちが高まっているのかも知れない。
銀色の金属器に手を触れて、力を宿すと、ハイリアは二つの腕輪を銀の短刀へと変化させた。
青い炎が灯る鋭い三日月形の双剣を握りしめ、同じように双剣をかまえる青舜に向かって身構えた。
「ちゃんと避けて下さいね! 青舜さんに怪我をさせてしまったら、白瑛様に怒られてしまいます」
「ハイリア殿こそ、傷を増やさないように気をつけてください。怪我をさせたとあっては、神官殿に何をされるかわかりません」