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【マギ*】 暁の月桂

第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕


鋭い金属がぶつかり合う音は、腕を通して頭まで鳴り響く。

剣と剣がぶつかり奏でる振動は、衝撃を腕に伝え、刺すような高い響きを頭に伝えた。

その中に、今日はやけに乱れた息が聞こえて五月蠅かった。

いつもはどれだけ動いていても聞こえない荒い息づかいが耳障りで、自然と眉間にしわが寄っていた。

苛立つのは、その音のせいだけなのだろうか。

体が重いわけではないのに、腕を振るう感覚がいつもと違う。踏み込む足が浮き上がっているような気がした。

向けられる刃先を避けて、斬撃をはなつのに、さっきからことごとく避けられている。

剣に意識を宿すのに、逸れた意識ばかりが気になって、上手く集中できない。

胸の中にあるわだかまりが疼くような感覚が続き、イライラとした。

激しくなる攻撃に、思わず力をこめて振り払えば、なぜか跳ね上がったのは自分の方の剣だった。

飛び上がった双剣の片割れをみて、心を乱した瞬間、間合いに入ってきた青舜の剣の切っ先が、喉もとに押し当てられていた。

「どうしましたか? 今日はやけに剣筋が荒いじゃないですか。そんなでは戦場で命を落としますよ」

ぴたりと身動きを止めたハイリアに、青舜が言った。

「すみません……、私の方から稽古を願い出たのに……」

剣を収める青舜の姿を見ながら、なんだか申し訳ない気分になった。

稽古で雑念に気をとられるとは、我ながら情けない。

「もしかして、緊張されていますか? 武人として戦うことが決まって」

青舜の言葉に、胸の奥にあるわだかまりが少し強くなった。いくさまであと二ヶ月ほどだ。

戦いが始まるとあって、宮廷内も少し騒がしい。

同軍となる武官たちと実戦に近い本格的な稽古が始まっただけでなく、青舜や白瑛から、いくさ場の軍の動きから、当日の陣営の配備まで細かな知識を教わる日も増え、いくさが迫っていることを強く感じる。
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