第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
あれ以来、こちらが赤面する反応を面白がって、やたらと肩に腕を回してきたり、歩きながら腰に手を回してきたり、ふいうちで抱きついてきたりと、前にも増してくっついてくるようになったから困っているのだ。
羞恥の出来事に発展するようなことだけは、なんとか防いでいるけれど、彼のしつこさには呆れてしまう。
ため息をつきながら、早くどうしようもない神官の部屋から出てしまおうと、扉の方へと急ぎ足で歩いた。
「ハイリア! 」
「なによ? 」
振り返り見えたジュダルの表情は、いつものからかう風ではなく、怪訝そうな顔つきをしていたから驚いた。
「おまえ……、何かあったか? 」
まっすぐに眼差しを向けられていたから、少し動揺した。
硬くなりそうになった表情を笑顔でごまかした。
「別に、何もないけど? 変なこと言ってないで、早く支度しなさいよ」
そう言って、扉を開けて外に出た。
扉を閉めてから、ほっと息をつく。
妙なことを言ってきたから、一瞬、こちらの考えを悟られたのかと思って焦った。
人の気など気にしないジュダルに限って、そんなことないと思うのに……。
きっと昨夜から、胸の奥につかえているようなものが残っているせいだ。
体を動かして早く無くしてしまおうと、ハイリアは朝の鍛錬の続きをするため稽古場へと向かった。