第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「神官殿、お迎えに上がりました」
低い男の声が部屋の外から響いてきた。
扉の方をみれば、従者の影がみえて複雑な気分になる。小さくため息をつき、ハイリアは声を張り上げた。
「すみません、まだなんです! 」
扉の近くにいるだろう従者に向かって言うと、すぐに返答があった。
「そうでございますか……。では神官殿、いつもの場所にてお待ちしております」
遠ざかっていく従者の足音をきき、ほっとした。扉の前で待たれては、さすがに焦る。
「ったく! 待たねーなら、はじめから迎えになんか来なきゃいいのになー……」
ジュダルが面倒くさそうに言う声を聞きながら、ハイリアは三つ編みを結う手を早めた。
「いつも起きてないから、心配して様子を見に来るんでしょ……」
「おまえが来てからは、毎日起きてるんだから来る必要なんかねぇーじゃねーか! 」
「……それ、起こしてもらってるの間違いでしょ? 」
「うるせぇーなぁ……、どっちだって一緒だろ? 」
「違うわよ! 毎朝、起こすのどれだけ大変かわかってる? ぜんぜん起きなくて、すんごく大変なんだからね! 」
結い上げた三つ編みを紐で結び留めながらジュダルを見れば、なぜか呆れた顔をされた。
「それで寝台から引きずり下ろすか? 力技にもほどがあるだろ……。普通、あんな起こし方はしないと思うぜー? 」
「悪かったわね! だったら、布団に埋もれたりしないでちゃんと起きてよ! ほら、髪はできたから早く着替えなさいよね! 」
三つ編みを結い終えて寝台から降りようとしたとたん、腕をジュダルが掴んできたのを感じて、ハイリアは溜めていたマゴイを放ち、その手を振り払った。
「痛ってぇな! おまえ最近、ひどくねーか?! 俺が触るたびにマゴイで攻撃してきやがって! 」
「ジュダルがやたらとくっついてくるからでしょ! この前のこと、まだ許したわけじゃないんだから! あんまりしつこいと、もう髪結いに来てあげないからね! 」
ハイリアの言葉に、ジュダルは納得がいかない様子で黙り込んだ。