第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
昨夜、皇子に言われた言葉を思い出して、ハイリアは胸の奥がずきりと痛むのを感じた。
―― 自分が利用されているだなんて……、そんなこと思いたくもないけれど……。
皇子が言う宮廷の異常とは、この黒いルフとも大きく関わっているのだと思う。
これがいったい何なのか、知らなければとは思う。知らなければずっと抱え込んだままになる。
―― だから、聞かなければ……、確かめなければ……。
確かめなければ胸の奥に感じているわだかまりは、きっと消えないままだ。
―― でも、どうやって聞けばいいのだろう……。
ちらりと視線を上げれば、髪を結い上げる自分を見下ろしているジュダルと目があった。
「なんだよ? 」
じろりと顔を覗き見られてどきりとした。
「いや……、なんでもないけど……、ちょっとやりにくいなぁと思って……」
なんだか上手く話し出せなくて、慌てて視線を逸らして誤魔化した。
「ああ? いつもやってんのに変なこと言ってるんじゃねーよ。おまえ、さっきから同じところばっか結い直してるしよぉ……。どうしたんだ? 」
ジュダルに言われて手元を見れば、なぜか三つ編みにした箇所の髪を無意識に解いていた。自分でもわけのわからない事をしでかしていて、目を丸くした。
「な、なんでもっと早く言わないのよ! 」
「おまえが勝手にやってたんだろ?! 」
「そうだけど、もっと早く言ってくれれば……! 」
「とにかく、早くしろよ! 」
「わかってるわよ! 」
慌てて解いてしまった場所から、三組みに髪を結い直していく。
予想外の時間ロスだ。本当なら今頃、髪くらいは結い終わったはずなのに、髪すら結い終えてないなんてマズイ。
どうにか中程を過ぎるくらいまで結い終わった頃、部屋の外に足音が聞こえたからハイリアはがっくりとうなだれた。