第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
木目で複雑に花の造形を作り出している格子窓から、柔らかな朝の日差しが降り注いでいて、部屋の中を明るく照らしていた。
寝台の上にあぐらをかいて座っているジュダルは、まだ白い寝衣を着こんだままで、着替えも終わっていない。
のんきに大あくびをしているジュダルの後ろで、ハイリアは彼の長い髪をとかしていた。
銀の髪飾りをもらって以来の朝の日課だ。
ジュダルは、先程やっと起きたばかりのせいか、窓から漏れる光を眩しそうに眼を細めながら、ぼんやりとしている。
彼の漆黒の髪は、寝台の上に広がっていくつかの長い小川を作り出していて、その毛先の方は今日も盛大に絡んでいた。
クシで丁寧にときほぐしながら、その絡まりをほどいていく。あまり引っぱるとジュダルが五月蠅いので、ときどき指ですかしといた。
指通りよくなったのを確認しながら、髪をクシでとかしていると、ジュダルの不機嫌そうな声が響いてきた。
「おいシロ、まだかよ? 」
そわそわとしながら、彼はこちらを振り返り見ていた。
「もう少し待ってよ。あとは結ぶだけだからじっとしてて」
落ち着かないジュダルを前に向かせて、髪をクシでまとめ上げた。
「早くしないと親父どもが来ちまうぜ? 」
今頃になって、焦り始めているようで呆れた。
「ぶつくさ言うんだったら、もう少し寝起き良くなってよ。ジュダルがなかなか起きないから、髪結うのが遅くなったんでしょ! 」
「……とにかく、早くしろよ! 」
「はいはい……」
髪を結ったところで、着替えがまだなのだから結局、遅刻なんじゃないだろうかと思いながら、ハイリアは髪を結う手を少し早めた。
肩の辺りで一度束ねて結び、そこから手際よく三つ編みにするための分け目を作り、たがいちがいに結い始めた。