第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「そんなに私が信用できませんか? 」
「ええ、信用できません」
あまりにもきっぱりと言われて、腹が立った。
いつも目を逸らされて話す機会もあまりないというのに、こちらのことを勝手に決めつけられた気がしたからだ。
「どうしてそこまで言い切れるんですか!? 失礼ながら、白龍様とはほとんどお話もしてきませんでしたよね? 勝手に信用ならないと決めつけられるのは心外です!
これでも私は、誰に対しても真摯に向かい合ってきたつもりですし、人を欺くようなことをした覚えだって……! 」
「だからですよ! 」
憤るハイリアの言葉をさえぎるように、白龍が声を張り上げた。
「あなたはこの国に入り、あの神官の側で、義父や義兄たちから与えられた役割を、何の疑問を持つことなく果たしている。なぜ、そこまで彼らのことが信用できるのですか?
金属器を手にしたとたん、この国に連れてこられた理由を考えたことは? 自分が利用されているとは思わないのですか? 」
目を見開いたハイリアに、白龍は続ける。
「正直なところ外部から来たあなたなら、すぐに疑問をもつだろうと思っていました。それなのに、あなたは疑うばかりか、そのまま受け入れて馴れ合い始めた。
ここ数ヶ月で何も気づかなかったのですか? あれだけすぐ側で見ていながら、あなたは何も感じないのですね」
白龍から黒い闇のようなものがわずかに溢れ出し、ハイリアは息を呑んだ。
怒りと憎しみに染まって、黒く濁ったルフだった。そのルフと似た、漆黒のルフを持つ神官とその従者たちの姿を思い出す。
「俺はあの義兄たちとは違う! あの神官たちと関わる気はありません! 当然、そこに関わるあなたと付き合う気もない!
この国の異常さに気づきもせずに、あの者達の手駒となっている、あなたのことなど信用はできません。失礼します! 」
言い放った白龍は、戸惑うハイリアを見向きもせずに、足早に階段を降りて行ってしまった。