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【マギ*】 暁の月桂

第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕


上へと連なる螺旋状の階段は、天井から漏れるわずかな薄明かりが段のありかを示すくらいで、扉を閉めてしまうと、中はほとんど暗闇に近い。

光から遮断されたようなその場所をひたすら上へと登った。

暗闇にぽっかりと空いた穴のようにも見える出入り口から、光る満月が見えていた。

階段を上りきった場所には、六畳くらいの空間があるのだ。

宮廷を空から一望することができるその場所は、元々は昔の宮廷を囲む城壁にあった物見やぐらなのだという。

今の宮廷が作られる時に、城内に組み込まれるようにして残った物見やぐらは、今ではほとんど使われることがないらしい。

いつも人の気がないから、一人で心を休めて落ちつきたい時には良い場所なのだ。

宮廷にきたばかりの頃は、ここによく来ていた。

その時の癖が残っているのか、寂しくなったり、悲しくなったりすると、つい足を運んでしまう。

ようやく辿り着いた出入り口から身を乗り出せば、古い木で作られた狭い空間が目に入ってきた。

誰もいないと思ったその場所に、人影があったから驚いた。

手すりに寄りかかり、夜空を眺めていたその人は同じ白い寝衣を身にまとっていた。

髪が黒かったから、一瞬、ジュダルと見間違えたけれど、肩の辺りまでしかないその長さで違うとわかった。

気配に気づいたその人が振り返り、左顔に目立つ火傷の痕がみえてハイリアは目を見開いた。

「……白龍様? 」

こちらの姿に気づいて同じように目を見開いていた白龍は、自分の姿をみるなりすぐに視線を外の方へと逸らしてしまったから、なんだか傷ついた。

相変わらずの冷たい態度に寂しくなりながら、少し離れた場所の手すりに寄りかかる。

まさかこの皇子が、こんな場所に来ることがあるなんて知らなかった。

側にいるというのに、何も言わない皇子の沈黙が辛くなってきて、ハイリアは少し緊張しながら声を掛けてみた。
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