第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
「わぁあああああ!!!! 」
叫びながら飛び起きあがると、そこは寝台の上だった。
息は荒れ、体が小刻みに震えていた。
暗い部屋の中で、ゆっくりと息をして呼吸を整えながら、ハイリアは冷たい手で震える体を抱きしめた。
何度か見ている夢が、誰も助けられなかった後悔と自責の念を蘇らせて、胸を締め付ける。
こみあげてきた嗚咽に、布団に顔をうずめて声を押し殺して泣けば、胸の奥につかえていたものが流れ出して、ようやく気持ちが落ち着いていった。
体の震えがとれた頃、泣きはらした目を袖で拭い、ハイリアは外へ行こうと真っ白な寝台から抜け出した。
薄暗い部屋の中にある鏡台まで歩くと、未だに着慣れない白い寝衣に身を包んだ自分の姿がぼんやりと映っていて、目元が赤く腫れているその顔が、ひどく不細工に見えたから少し笑えた。
鏡台のすぐ側には、着慣れている砂漠の民族衣装が、すでにたたまれて置いてあった。
数ヶ月前にムト達が新調してくれた男装服は、頼んでもいないのに、気づけば綺麗に洗濯されて、いつもこの場所に置いてある。
触れてみて、変わらない優しい肌触りに安堵していると、ふわりと花のようなお香のかおりが漂った。
少し前までは砂の埃くさい匂いがしていたはずなのに、あの香りはいつの間にかどこかへ消えてしまった。
物悲しさを感じながら、鏡台の椅子にかけてある羽織物を手にとって着ると、ハイリアは薄暗い部屋から外へと出た。
真夜中の宮廷の廊下は、ひどく静かだった。ひと気のない雰囲気は不気味にも思えるのに、恐く感じなかったのは真っ暗ではなかったからかもしれない。
見上げれば、廊下を薄く照らす満月が輝いていた。
落ちつける場所を思い浮かべて、少し冷たい廊下をゆっくりと裸足で歩いた。
風のほとんどない夜みたいだ。歩いていても、わずかな自分の足音くらいしかしない。
廊下をいくつか曲がり、突き当たった場所にある扉を開けると、中にある細い階段へと足を踏み入れた。