第20章 緋色の夢 〔Ⅴ〕
激しく燃え上がる真っ赤な炎に辺りを囲まれていた。
民家からは黒煙が上がり、村は赤く染まっている。
変わり果てた姿であちこちに倒れているのは、動かない死骸ばかりだ。
呑み込まれてしまいそうな赤い炎から、必死で逃げようとしているのに、足は固まってしまったかのように動かなかった。
よく見れば何かの黒い手が足首をつかんでいた。真っ黒なその手に掴まれた足は黒く変色し、先の方から石のようになって地面と融合していく。
逃げることも出来ずに恐怖に震え上がる目の前で、揺らめく紅の炎から不形体の何かがうごめいた。
炎の中から現れたそれは闇だった。
闇はぐにゃぐにゃと形を変えて、妖艶な女の姿へと変わった。
村を呑み込む激しい炎をものともせずに、こちらへ近づいてくる女は、闇のようなルフを彷彿とさせていた。
にたりと笑う女に恐怖し、足を動かそうとするが、いつの間にか膝までが石像のように固まっていて動かない。
近づいてくるその闇の後ろに、炎に身を包んだ人影が見えた。浮かび上がったいくつもの顔が、苦痛に顔をゆがめ、腕を伸ばして叫んでいる。
『ナゼダ……』
『ナゼ……、タスケテ、クレナカッタノダ……? 』
それが滅ぼされた村の人やキャラバンの仲間たちの顔だとわかり、目を見開いた。
うなるように響くその音に耳を塞いだが、音は消えることがなく耳の中に響き渡った。
『ナゼ、オマエダケガ……、イキテイル……? 』
恐ろしい言葉に震え上がる中、闇のような女がこちらへ腕を伸ばしていた。
女は美しい口元をつりあげて笑い、こちらを指さした。
『アナタガ、スベテ、コロシタノデショウ? 』
気づけば手には短剣が握られていた。
刃先からは、どろりとした赤い液体が垂れ、掌を真っ赤に染め上げていた。