第2章 白夜
「理由は分からんけど、忍足くんらが白石くんを避けとうようにしか見えんくて…それで光くんやったら何か知っとうかなって…喧嘩してしもたん?」
段々俯きながら話す小夜の目線や表情から、心底白石を心配しているのは見て取れる。
明日白石が死ぬと思っているのではないかと、こっちが心配になるくらい難しい顔をして、唇に人差し指を当てている。
小夜の声越しに見えた謙也の顔や仕草が、まるでこの目で見たかのように鮮明に浮かび上がり、思わず溜息をついた。
全く…誤魔化すんやったら上手いこと誤魔化してくれへんかな。謙也さん
溜息ついでに、あのヒヨコみたいな髪型と色をした先輩に対して冷めた感想がこぼれ落ちる。
何も知らない人間がこの話を聞いたら「四天宝寺テニス部史上最大の危機や!」とでも騒ぐかも知れないが、財前が抱いた感想といえばその程度のものだった。
だって、分かっているから。小夜の言う「テニス部であった何か」が何なのかを。
ただ、その「何か」は他言無用だと上級生たちにきつく言われているので、言うわけにはいかない。
さて、何て言うたらええもんか…。
やって来てしまったシワ寄せをどうするかと、視線を一旦あさっての方向にやる。
壁に掛けてあるカレンダーが目に入り、今日の日付である「14」をじいっと見つめる。
本当の事は言えない。
かといって、嘘の理由を説明してもバレる事は長年の付き合いから明々白々。
となれば…