第2章 白夜
授業中。古文を音読するおじいちゃん先生の声が遥か遠くに聞こえる。
あの時の、俺が言ったあの言葉。
その後悔が耳栓がわりになって、話が入ってこないのだ。
やってもた
頭を抱えながら思うのは、勿論今日の朝練前のこと。
『第一これから全国制覇しよかっていうとんのに、そんなモンにうつつを抜かしとう暇ないやろ』
あそこまで言うつもりはなかった。
分かっていた。あいつらが高野さんをどうこう言いたいわけではない事は。
単にいつものノリで、俺をからかっただけだという事は。
ただ、例え心を許している仲間たちであっても。
彼女との事を冷やかすように、からかうように言われるのは、何故か酷く嫌だった。
『この前高野と喋っとった時メッチャ楽しそうな顔しとったで白石』
『でも蔵リン、高野ちゃんのこと呼び止めてまで重たい荷物持ってあげとったやん…』
今でもハッキリ思い出せる声。
高野さんのことはそっとしてやって欲しいと思った、というのもある。
しかしそれ以上に、俺の本能的な何かが、駄々っ子みたいに嫌だと叫んでいた。
そしたら、その時の声が謙也たちの声が、黒板を引っ掻く音みたいな音に聞こえてしまって。
言い聞かせるためにも、自分に落ち着かせるためにも、耳を塞ぐように保健室の事を話して。