第1章 朧月夜
チャイムが放課後を告げ、生徒たちがぞろぞろと教室を出て行く。
そんな中私は、昼休みが終わってからもう何十回も反芻している映像を、また頭の中に思い浮かべていた。
『何で私、皆に嫌われてもうたんやろ』
誰にも聞けなかったことを口に出来るとは思ってもみなかった。
言うことに…言わなければならない状況になったとしても、その相手は産んでくれた両親か、物心つく前からずっと一緒にいる、幼馴染くらいだと思っていた。
理由があるとはいえ酷い事を言って突き放したクラスメイトだとは、夢にも思わなかった。
どうして白石くんだったのかは、自分でも説明ができない。
他でもないこの人に聞いてほしいと、本能が思ったのかもしれない。
私にさえ普通に接してくれるクラスメイトの優しさにつけ込んだだけなのかもしれない。
「大丈夫」で誤魔化すのももう限界で、誰でもいいから吐露したかった…なんて自分本意な理由からなのかもしれない。
ただ、あの時の私は、ほとんど何も考えていなかった。
言うべきだという理屈も、言っても白石くんを困らせてしまうだけなのではないかという理性も全部飛び越えて、その問いを口走ったのだ。
『あかんとこなんか…ナンボ考えても分かるわけないやん。そんなモンいっこもないねんから』
神様みたいな人。
冗談でも大袈裟でもない。この人を初め話した日に思ったのと同じことを、この時も思った。
同時に、光くんが部活のことを話していた時のことも、ふと思い出した。
『ホンマにロクでもない部活やわ。どいつもこいつも俺より歳上やのにしょーもないことばっか言いよるし…』
あの子が中学に入ってから、たまに、愚痴としてしか話してくれないけれど、画面が真っ暗になったパソコンに映ったあの子の顔は、いつも嬉しそうにしているのを私は知っていた。
―そっか、そうやねんな
目の前の白石くんと、頭の中の光くんに向けて心の中だけでそう言った。