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【テニスの王子様】白のコルチカム

第1章 朧月夜


「あ、せや!白石の前の席の奴! アイツが喋っとった時何かヒソヒソうるさなかった?」

 謙也の言葉をきっかけに、今日の練習の反省でいっぱいだった頭にポツンと高野小夜の後ろ姿が浮かんだ。

「あー…高野さん?」
「そうそう。そんな名前」

 苦し紛れの謙也の話題転換に眉をひそめる一氏達を尻目に、彼の話を広げる。
 すると、既に制服に着替えを済ませていた金色小春がハッとした表情を浮かべた。

「もしかして…フルネームは高野小夜ちゃんやない?」

 一言一句間違いなく出て来た高野小夜の名前。口をぽかんと開けたまま、白石は首を縦に振った。

「小春知っとん?」
「直接会うたワケやないねんけど…アタシの友達にその子と同小の子が居って、一回だけ話に聞いたことがあんねん」

 右手を頬に当てた小春が、遠い昔を思い出すようにして口を開く。

 小春の友人から見た高野小夜は、小学校低学年の頃から物静かな少女だったという。
 幼さが抜けきらない少年少女にとってさぞ印象的に映ったことだろうと、白石は想像した。
 その子が彼女と同じクラスになった頃には、太陽を覆う暗雲のように彼女の良くない噂が立ち込めていたらしい

「その子、昔と比べてもあんま変わらへんって言うてたわ。キレイで頭良くて、いわゆる優等生ってカンジで…でもホラ、そんなん面白くない奴って居るやん?」

 珍しく歯切れの悪い小春の口調だったが、彼の言いたいことは分かる。
 確かに何年生だった頃でも、教室に行けばクラスの輪から外されている人間は必ずいた。

 皆より足が遅い、皆より頭が悪い、皆より頭が良いからって調子に乗っている…

 理由は様々だが、一貫して「普通と違う」ところがある子が標的にされているように思う。
 そんな世界に「容姿端麗、成績優秀」なんてレッテルを貼った少女が教室に居れば何が起こるかなど、想像に難くない。
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