第4章 英語の先生
(ど、どういうこと…?
キス…されたよね…?
いや、でも海外だったらあれは挨拶レベルだし…
え、でもキスはされたよね…)
アヤセがモヤモヤと考え込みながら
体育館に向かっていると…
「アヤセちゃん!」
(“ちゃん”!?)
驚いてアヤセが声のする方を向くと、
そこには開いた扉にもたれ掛かった
一人の男の人がいた。
アランによく似た緋色の瞳に、
シルバーアッシュのヘアカラーが
印象的な男性だった。
その部屋のプレートを見上げると
“英語科準備室”とある。
「やっぱりアヤセちゃんでしょ!
会えるの楽しみにしてたんだよ!」
そういうとその男性はニッコリと微笑む。
朝からあんなことがあった
アヤセにとって
そのまっすぐな笑顔さえも信用できない。
しかも“ちゃん”付けで呼ぶその軽さに
疑念の気持ちが湧くばかりだ。
「俺は英語科のレオ。よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします…。」
怪訝そうな顔でアヤセは挨拶をする。
「ねえ、アヤセちゃんコーヒー飲める?」
(えっ…)
アヤセの目が見開く。
アヤセは無類のコーヒー好きだった。
学生のときはずっとカフェで
バイトしていたほどである。
「今落としたばかりなんだ。
今日は気分がよかったから
豆から引いちゃった!」
とレオはニッコリと微笑む。
アヤセはくんっとその香ばしい香りを
胸に吸い込む。
(いい香り…私の好きな種類の豆かも…)
「どう?
まだ紹介式まで少し時間あるでしょ?」
「…じゃ、じゃあお言葉に甘えて…!」
そうしてアヤセは
先程の疑念はどこへやら、
足取り軽くその部屋に入っていった。