第33章 禁煙します/ジン
(禁煙します)
「あ、ごめんジン、ここではタバコ吸わないで。」
いつもの様に私の部屋へ本を読みに来たジンは、擦ろうとしたマッチを持ったまま驚いた様子で顔を上げた。
「どうしてだ。」
「あれ、確かさくらさんも煙草吸ってましたよね?」
「うん、そうだったんだけど。今禁煙中なの。」
やや不機嫌そうな声のジンは無視して、キッチンから顔を出したウォッカにそう返事をした。
「ハッ、禁煙!そいつは1人でやってくれ。俺まで巻き込むんじゃねぇよ。」
ジンはそれを鼻で笑うと、左手でマッチを擦る。
音を立てて点いたその炎がジンの咥えた煙草に燃え移る前に、私はそれにふっと息を吹きかけた。
細い煙だけを残して消えたマッチをしばらく見つめた後、ジンはそれを投げ捨てて勢いよく立ち上がると私の肩をぐっと掴んだ。
「おいテメェどういうつもりだ。」
キッチンの方でウォッカが慌てたのが分かった。兄貴、と声が聞こえたが、ジンの手の力は弱まる気配がない。
「ごめんって。でも目の前で吸われると私も欲しくなっちゃうんだもん、どうしてもならベランダ出てくれない?」
両手を挙げてベランダの方を顎で示す。
するとスッと肩にかかっていた力が消えたかと思うと、ボスッと音を立てて再びジンの体はソファに沈んだ。
「外へ出て吸うほどニコチン中毒じゃねえからな。不本意だがこの部屋にいる間は我慢してやるよ。」
ジンは舌打ちをして温くなったコーヒーを一気に飲み干した。