第1章 Sunflower【澤村大地】
そう言ってロッカーを閉め、扉に手をかけたところで呼び止められた。
「あ、あのさみなみ…、今日男バレ何時に練習終わる?」
「えっと…いつものメニューだから、大体7時半くらいだと思うけど…なんで?」
「ううん、ちょっとね…」
そう言って結ははにかんだ。
ギシリ、と自分の胸がきしむ音が聞こえた。
圧し潰されたように、心臓が痛い。
結がそういう顔で笑うのは、
大地の事を考えてる時だって知ってる。
「呼び止めてゴメン、部活ガンバ!」
「う、うん、ありがと…じゃーね」
私は精一杯笑顔を作って結に手を振り、逃げるように更衣室を出た。
ホントは知ってるよ。
結も大地が好きなんだってこと。
私と同じように、
ずっと前から大地を目で追いかけてたこと。
でも結は知らない。
私が好きな人を下の名前で呼ぶことに
ちょっとした優越感を感じていること。
大地が振り向いてくれるんじゃないかと
淡い希望を抱いて、女子じゃなく
男子バレー部のマネージャーを選んだこと。
卑怯者なんだ、私は。
いつからか、私は結とまっすぐ目が合わせられなくなってしまった。私の方が大地のそばにいるはずなのに、結の明るい笑顔を見るたび、何故だか自分の方が惨めで、情けなく思えた。
そんな時私は、いつもこうやって結の前から逃げる。そんな自分自身がたまらなく嫌だった。
第二体育館の渡り廊下まで来たところで、私は立ち止まった。喉の奥がツンとして、視界がどんどんぼやけていく。水の中にいるみたいに、景色がゆらゆらと揺れる。
その時、体育館の入り口から新入部員の日向が顔を出した。同時に、瞬きした私の目からポタリと涙が溢れる。その瞬間を目撃してしまった日向はギョッとして、慌てて私のもとに駆けてきた。