第1章 Sunflower【澤村大地】
「…で、どうするの?」
潔子の問いかけに、我に返る。
潔子のことだから、ずっと前から気付いていたんだろう。それを敢えて追求しなかったんだ思うと、一生懸命周りに悟られないように振舞っていた自分が、途端に恥ずかしくなった。
なんでもないようなフリをして、私はいつものように精一杯強がってみせる。
「ど、どうするも何も、分かんないよそんなの。インハイ前の大事な時期だし、私が変なこと言って部活の空気壊すのイヤだもん」
今度は潔子が視線をずらし、「そっか」とポツリと呟く。それから自分だけ着替えを済ませて、
「じゃ、私さきに行ってるから」
と、さっさと体育館へ行ってしまった。
私一人がポツンと更衣室に取り残される。
(何よ…。聞くだけ聞いて、
自分だけ行っちゃうなんてさ…)
私はそっとため息をついた。
…ホントは分かってる。
私が大地に告白できない理由は
そんなんじゃない。
「…だって大地には他にいるもん、好きな人」
とその時、今さっき閉まったばかりの扉が勢いよく開いた。独り言を聞かれてしまったような気がして、私は慌てて入り口を振り返った。
「失礼しまーす」
その声にギクリとした。
ぴょこんと顔を出したのは、
隣のクラスの道宮結だったから。
私のもう一人の幼なじみ。
そして、大地の好きな人。
中学時代、女子バレー部の主将を務めていたのが結だった。
心臓が、周りにも聞こえるんじゃないかと思うほどバクンバクンと跳ね始める。そんな私の気も知らないで、結はこっちを見るなり花が咲いたような笑顔になった。
「あれっ、みなみ!お疲れー!」
「お、お疲れ…!結も部活?」
「うん、もうすぐインハイ予選だしね〜。休んでられなくって。最近、早めに行って個人練習してるんだ」
言いながら、結は私の2つ隣のロッカーを選んで着替え始める。
スラリと伸びた腕と脚。
私よりも少しだけ高い背。
晴れやかな笑顔を浮かべて結が言う。