第2章 Last smile【月島蛍】
みなみが留学する噂は、他のクラスまで巻き込んですごいスピードで広まった。休み時間になる度、違う生徒が入れ替わりで事情を聞きにやって来るほどで、僕は改めて、彼女が皆から好かれていたことを知った。見た目も良くて、明るくて、それでいて気取らないみなみは、僕が思っていた以上に人気と人望を得ていたようだった。
その様子を教室の端から眺めながら、まるで日なたと日陰だな、なんて思う。別に羨ましいわけじゃない。けど、あんな風に人気者のみなみを、こうして遠くから眺めている方が僕にはふさわしいように思えた。
それから一ヶ月。
その日は案外早くやってきた。
出発当日は土曜日で、僕と山口はいつも通り、朝から部活のために学校に来ていた。
昼休み前、クールダウンのストレッチをしながら、山口が小声で僕に言う。
「ツッキー、みなみが出発するのって今日でしょ?見送り行かなくていいの…?」
「そんな小学生じゃあるまいし…。僕が付いてなくたって大丈夫だよ」
責められているような気がして視線を外した僕に、山口が珍しく食い下がる。
「だって…みなみここ数週間ずっと淋しそうにしてたからさ。“ツッキーに酷いこと言ったかも”って。…喧嘩でもしたの?最近一緒に登校してないんでしょ?」
「アイツ、そんなこと言ってたの…?」
「うん…」
「…バッカじゃないの」
そう呟いて、僕は立ち上がった。
「ちょっと昼休み抜ける。部長が何か言ったら適当に言っといて。体調不良とかなんとか」
「分かった…!」
山口はそう言ってホッとした笑顔を浮かべた。
時計を見上げる。学校から駅までは走って10分ほど。みなみが乗る電車までまだギリギリ間に合うはずだ。
僕は校舎を抜け、駅までの道を急いだ。
…ほんと、バカじゃないの?
一方的に突き放したのは僕の方じゃないか。
なんで君が気に病むのさ。
自分でも何がしたいのか分からなかった。ただ、このモヤモヤとまとわり付いてくる感情をどうにか振り払いたくて、僕は駅までの道をひたすら走った。
「みなみっ…!」
「蛍…?」
改札の手前で見慣れた背中を見つけ、僕は叫んだ。驚いた顔でみなみが振り返る。
「ど、どうしたのよ…!そんな息切らせて…」
「別に…。ちょうど昼休みで、買い出しがてら来ただけ」