第2章 Last smile【月島蛍】
「もう戻って来たくなくなるんじゃない?」
「…………」
うつむいて黙ったまま、みなみはトボトボと歩き続けた。居心地の悪い沈黙とは裏腹に、爽やかな朝の小鳥の鳴き声がする。
しばらくして、みなみはそっと呟いた。
「……蛍は…それでもいいんだ…」
「…別に。だって、僕がどうこう言ったってしょーがないでしょ。もう留学は決まってるんだし」
「………っ」
みなみがピタリと足を止める。それにつられて僕も立ち止まる。
それまで俯いていた彼女が突然顔を上げ、一言。
「蛍のバカッ!!寂しくなったって知らないからね…!!」
それだけ言い放って、みなみは弾かれたように駆け出した。僕だけを取り残して。
今なら、分かる。
あの時君は、本当は僕に
引き止めてほしかったんじゃないか。
それ以来、僕らは並んで歩かなくなった。