第1章 Sunflower【澤村大地】
校庭に出ると、いつの間にやんだのか雨は上がっていた。初夏の通り雨だったようで、涼しい風が吹いていた。雲が流れ、その切れ目から星空まで見える。
私達は黙ったまま並んで歩いた。
「…みなみを見てると私まで辛いよ」
ポツリと潔子が呟く。
一つ一つ丁寧に、言葉を紡ぐように続ける。
「行き場のない気持ちなら、やっぱり伝えるべきだと思う」
「だって…大地の中にある私の居場所は、マネージャーっていうポジションしかないんだもん。もし私がそれを伝えてギクシャクしちゃったら、部活にも行きづらくなるし…。そのたった一つの居場所を手放しちゃったら…私、もう大地の目を見て話せなくなっちゃうよ…」
…でも、ホントは私だって気付いてる。
情けない言い訳をしながら、
自分が逃げてるだけだってこと。
「…澤村のこと、もっと信じてあげてもいいんじゃない?」
「え…?」
突然潔子は立ち止まって、私を真っ直ぐ見つめた。
「確かに、澤村はこっちが呆れちゃうほど鈍感だと思う。女心にも疎そうだし、流行に乗り遅れるタイプだし、バレー馬鹿だし、不器用だしーーー」
「……き、潔子…?」
「怒ると怖いし、たまに腹黒いし、部活やめたら太りそうだけどーーー」
「………」
潔子の口からは、ズラズラと大地の悪口が留まることなく溢れ出る。
潔子が誰かを冷たくあしらうのは今までたくさん見てきたけど、こんな辛辣な連続攻撃は初めて見たかも…。
「ーーーでも、誰かの気持ちは、逃げずにちゃんとどっしり受け止めてくれる人だと思う」
呆気にとられた私は、反論するタイミングを見失ってポカンとしてしまった。それでも最後は真剣な眼差しで的を得たことを言うから、私は思わず笑ってしまった。
「……ふははっ」
「なっ、なんで笑うの…!?」
潔子は珍しく顔を赤くして戸惑っている。
「ご、ごめん…潔子があんまりにもヒドイこと言うから…可笑しくって…!でも、大地ホンットに鈍いし、乙女心は分かんないし、流行にも疎いし、怖いんだもん…!!」
お腹を抱えて笑う私を見て安心したのか、潔子はホッとした様子で笑った。