第1章 Sunflower【澤村大地】
私は勢いよく扉を開けて
更衣室へ逃げ込んだ。
でも、誰もいないと思っていた私の目の前に
驚いた顔の潔子が立っていた。
「き、潔子…!」
「みなみ、澤村と帰ったんじゃなかったの…?」
「あぁ…ううん、もういいんだ…」
ロッカーを背にして床にしゃがみ込む。
膝をギュッと胸に引き寄せ、顔を伏せる。
馬鹿みたい。最初から大地が私を選ばない事なんて分かってるじゃない。それなのに変な期待して、ドキドキして、もしかしたら気付いてくれるかな、なんて思ってた。
堪えきれなくなった涙が、
ポロポロと溢れた。
しゃくり上げるたび肩が震える。
潔子は鋭い。こういう時、何も説明しなくても大体何があったのかを分かってる。
潔子はただ黙って私の隣に座り、
そっと肩を寄せる。
長い沈黙のあと、先に潔子が口を開いた。
「……私ね、勝手にみなみのことを戦友みたいに思ってたんだよ?」
「………どういうこと…?」
「…私にもね、好きな人がいるの」
「え……?」
「…私ね、菅原のことが好きなんだと思う」
突然の告白に、私は息を飲んだ。
「え…、だ、だって…菅原は…」
「うん、分かってる。菅原は他に好きな人がいるもの」
そう言って潔子は、寂しそうな顔で微笑んだ。
誰だって見ていれば分かる。
菅原には幼馴染がいて、
いつも気に掛けているから。
それを知っていて潔子は、
ずっと菅原に想いを寄せていたんだ。
私と同じ。
振り向いてもらえる可能性がない、
そんな相手を想い続けていたんだ。
「だからね、」と潔子は続けた。
「みなみのことをずっと見てて、自分と重ねちゃってたのかもしれない」
「…………」
「それでも、告白しようと思うの」
「え…?」
「ホントはずっと言わないまま卒業するつもりだったけど…。でも、みなみを見てたら考えが変わったの」
呼吸をおいて、一言。
「だって、自分だけが我慢してるなんて悔しいでしょ?」
私は思わず潔子を見つめた。
決意のあとの、真っ直ぐな瞳。
静かに私を見つめ返して、続ける。