第37章 遊郭へ
瞬時にその姿を見切った妓夫太郎は悪い予感を感じ取り避けたが、堕姫はそうはいかなかった。
「ギャ…!」
無造作にうねらせ反撃を仕掛けた帯が、小さな火薬玉を掠る。
たったそれだけで轟音と共に爆発した衝撃は、堕姫を容赦なく襲った。
鬼には陽光と日輪刀以外は効果が無いはず。
なのに爆撃は容赦なく堕姫の細い頸を爆ぜ飛ばし、頭と胴を切断した。
(特殊な火薬玉だなぁ。鬼の体を傷付ける威力。気付かねぇで斬っちまって喰らったなぁ)
天元と真正面から対峙しながら、天元の背後で崩れ落ちる妹の姿を見据えた妓夫太郎が冷静に現状を処理する。
(すぐ攻撃喰らうからなぁあいつは)
呆れにも似た視線を向ける妓夫太郎の視界の隅で、天元の刀が光る。
普通の日本刀に比べれば巨大な刃だが、ただそれだけだ。
火薬玉の時のように、少し頸を逸らして刃が届かないぎりぎりを避けた──ように見えた。
「!?」
視界の隅にあったはずの金の刃が、ぐんと視界を通り過ぎる。
急に刀身が伸びたそれは、妓夫太郎の頸の真横まで刃を伸ばしたのだ。
(刀身が伸び…っ刃先を持ってやがる!)
天元を凝視すれば、その手が握っていたのは対となるもう一つの日輪刀の金の刃。
鎖で繋がっている双刀の切っ先を、たった二本の親指と人差し指で挟んで持っているのだ。
凡そ人間とは思えない握力とバランス力を駆使した天元の芸当に、流石の妓夫太郎も完全回避とはいかなかった。
咄嗟に振るった鎌で、頸を切断しようと迫る刃をガキン!と弾き飛ばす。
それでも防ぎきれず、妓夫太郎の頸に真っ赤な切れ目がツゥと刻まれた。
「ううぅう! また頸斬られたぁ! クソ野郎クソ野郎! 絶対許さない!!」
「チッ、こっちは仕留め損なったぜ」
「悔しいぃい! なんでアタシばっかり斬られるの!」
堕姫の雄叫びと、天元の舌打ち。
今度は頸を斬られた妹の手助けには動かない妓夫太郎の目が、ぎょろりと天元を睨んだ。
「お前もしかして気付いてるなぁ?」
「何に?」
「…気付いたところで意味ねぇけどなぁ」
堕姫の頸を狙い、同時に妓夫太郎の頸も狙った。
同時に二つの鬼の頸を切断すれば、倒すことができる。そう判断したのであろう、天元の予想を妓夫太郎は口にしなかった。
それが正解だからだ。