第1章 溺れる私
チョークが黒板に当たる音がやけに大きく聞こえる。
その音が止まったかと思えば、今度は、先生の声が先ほどの音とは比にならない大きさで響いてくる。
その声を香織は聞き流しながら、一番後ろの日の当たる席で優雅に日向ぼっこを堪能していた。
にしても…。
目蓋が重い…これは2トン位はあるんじゃないだろうか…?
午後の1番の授業、私の苦手な古文。
…これは寝るしかないじゃんッ!?
心の中で勝手に決めると、先生からは見えない様に目の前の背中に隠れて机にうつぶせる。
改めて周りを見渡してみればその体制を取っているのが自分だけじゃないらしく少し安心した。
そのまま小さく息を吐いてやっと、目を閉じる。
「ちょっとー、石田さん!?」
先ほどまで前の方で響いていた声が間近に聞こえて咄嗟に飛び起きる。
そして、声のするほうを苦笑しながら見上げた。
「石田さん、寝れる点数じゃないでしょう!? かの有名なドン・シベットだってこう言っています!『貴方の心からくるものは、人の心を動かす。』貴方が頑張れば先生だって平常点を高くつけたり―――…。」
長々と続きそうな天方先生のうんちくに、小さくため息をついた。
普段は、天ちゃん先生と呼ばれて親しまれているのだが…こういう所はどうにも好きになれない…。
語り終えた天ちゃん先生が壇上に戻るのと、チャイムが鳴るのはほぼ同時だった。
それじゃあ!と言って教室を去った天ちゃん先生と入れ替わりに、特徴的な赤いポニーテールが目の前に現れる。
「香織ちゃん、怒られてたね!!」
「江ちゃん…。もー、私眠いよー…。天ちゃん先生のうんちく長いし…。」
起こしていた身体を再度突っ伏した私に、江ちゃんが苦笑する。