第1章 減らない料理
「ただいまー。」
自宅に帰ると、お母さんが心配そうな顔をして傍に来た。
「シュリ、どこに行ってたの?」
「湊とデートだよ?」
そう言うと、お母さんの表情が曇った。
私の手を取り、目に涙を浮かべて見つめてきた。
「シュリ、つらいのはわかるけど…。」
「なにが?」
お母さんが何故こんな顔をして、こんなことを言うのか分からなかった。
今の私につらいことなどない。
湊の様子がおかしいのは心配だが、プロポーズをされてむしろ幸せだ。
「シュリ、湊君はもう…。」
そこでお母さんは言葉を詰まらせ、泣き出した。
「お母さん?」
「湊君は、亡くなったでしょ…っ。」
「え?」
お母さんが何を言っているのか理解できなかった。
湊が、亡くなった…?
「なに言ってるのお母さん。今日だって会ってきたんだよ?今だって家の前まで送ってくれて…。」
「それは、貴女の妄想なの。湊君は2週間前に貴女と小さな子が車に轢かれそうになったのを庇って亡くなったでしょ?お葬式にも行ったでしょう?現実を受け入れたくない気持ちはわかるけど、湊君はもういないのよ。」
その瞬間、ビデオテープが巻き戻る様な速さで脳裏にある映像が過った。
見知らぬ小さな子どもが車の前に飛び出して、反射的に追いかける私。
その子を抱えて、車が目前に迫った時、湊が飛び出してきて私とその子を突き飛ばした。
血の海に倒れる湊、それを呆然と見つめる私。
喪服を着た沢山の人達。
棺桶の中で眠る湊。
その前で泣き崩れる…私。