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この世界の片隅で(恋愛小説短編集)

第1章 減らない料理


「嘘だ!!湊は死んでない!!」

私はお母さんを突き飛ばした。

湊がもういないなんて信じられない。
今さっきまで一緒にいた。
私の言葉に笑ったり、困ったりしていた。
二人がお気に入りのお店でパスタを食べて…。

その時私はハッとした。

湊は、パスタを食べていなかった。
飲み物も料理も、全く減っていなかった。

「嘘、だ…。」

きっと、何かの間違いだ。
湊は最近食欲がないだけで。

私は玄関から飛び出した。

湊に会えば、安心できる。
どうして食欲がないのかちゃんと理由を聞こう。
きっと何か理由があるはずだ。

泣きながら湊の家まで走った。
普段こんなに走ったりしないから息が切れて脇腹が痛い。

それでも、1秒でも早く湊に会いたくて、彼の顔を見たくて、私は足を止めなかった。

「シュリ、そろそろ結婚しよっか。」

あの時の湊のはにかんだ顔が頭に浮かんだ。

ロマンもムードも無いプロポーズ。
それでも、人生で一番幸せな瞬間だった。

「湊っ…!!」

走って走って、彼の名前を何度も口にした。


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