第12章 Fate/Zero...? 大切だからこそ
時計塔にいるウェイバーのもとへと聖遺物を運んで戻ってきたシロウは、まだ夜明けには、ほど遠い時間だというのに、部屋の扉の前で立ち尽くす私を見るなり、怪訝そうに眉を寄せた。
「――何があった? 君らしくもない顔をしているぞ」
それは至極自然で、もっともな問いかけ。なのに、その問いかけに対して、私の肩は勝手に震える。
「■?」
ますます、怪訝そうな顔をする彼を見て、何か言わなくてはと思った。だけど、そのときの私には、どうしても、彼の真名を口にすることができなくて、
「……アーチャー……」
震える声で紡いだ呼び名に、シロウの片眉が、わずかに動いた。
「――■、もう一度、聞く。私のいない間に、一体、何があった?」
静かに、けれども、たしかな重みを持った言葉が、シロウの口から発せられる。
床に膝をつき、幼い私の視線に合わせたシロウの手が、震える私の両肩を包みこむ。
――鉄色の双眸から、目を逸らすことができない。
「……何か、オレに関係のあることなんだろ?」
「彼」であって「彼」ではない、シロウの、崩した口調で問われる。
たまらず、私は、シロウの首に抱きついた。
「ごめん、ごめんなさい――でも、こわいんだ。“シロウ”に嫌われるのが、こわいんだ」
「馬鹿だな、オレが■を嫌うはずがないだろ」
耳もとで聞こえる低い声が、そう言葉をなぞる。それを聞いて、私は、シロウの肩に顔を埋めた。
「……士郎の、両親に、“記憶”が、返還されたんだ」
「――ああ」
「でも、二人は錯乱して……士郎は、養護施設に引き取られて」
「――そうか」