第11章 Fate/Zero...? 過去と現在
「全く、君という人は相変わらずだな」
テーブルを挟んで反対側にいた彼が、私の前まで移動する。それでも、情けないものになっているだろう顔を見せたくなくて、私がうつむいたままでいると、彼は屈みこんで私を抱きしめた。
「シロウ――」
「悔いなど、私にはない。オレは私として再び君と出会い、君に救われた――それで、十分だ」
自らの胸に私の頭を抱えこむようにしたのは、私の、顔を見せたくないという意思を汲んでくれてのことなんだろう。私の頭の上から降ってくる声は、“かつて”の彼からは想像できないほどに、穏やかで、やさしかった。
その声に、どうしようもないほどの安堵感を覚えながら、私は小さく呟く。
「……なんか、悔しいな。君を慰めるのは、いつも私だったのに」
「何、慰められてばかりでは性に合わないのでな」
いつもの調子で、そう返してきたシロウは、けれど、ふいに私を抱く腕に力をこめた。
「――オレは、いつだって、こうして君を慰めてやりたかったさ。だが、君はオレに弱さを見せようとはしてくれなかった」
「そうかなあ……聖杯戦争のときは、相当、心配かけたと思うんだけど……」
夢の中で失われていく命の姿に涙し、消えゆくとわかっている命を救えない自分に絶望した。
悪夢にうなされ、眠ることがこわくなって、ろくに睡眠も取れなくなった私を、赤銅色の髪の彼は、いつだって気にかけてくれていたわけで――
「だが、君はいつだって笑っていただろう。オレの前では気丈にふるまって、決して涙を見せようとはしなかった」
「それは――」
自分よりも精神が幼い彼に、心配をかけるのが嫌だったからだ。
けれど、それを言うよりも先に、シロウが口を開く。
「もう言わせんぞ。オレを――私を、幼いとは」
「……シロウ」
「こうして再び現界した以上、私はどんな手段を使ってでも君を守り抜く――覚悟しておくんだな、■」
私を抱きしめたシロウが、不敵に笑ったような――そんな気がした。