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Fate/IF

第11章 Fate/Zero...? 過去と現在



「おはよう、シロウ」
「ああ、おはよう」
 努めて何事もない風を装って、朝の挨拶を投げかければ、キッチンに立っていたシロウが振り返る。
 けれど、そこで彼は微かに眉をひそめた。
「……どうした、■? 顔色がよくない」
 どれだけ私が元気な声をつくってみたところで、顔色の悪さは隠せないらしい。鉄色の瞳に宿っていたのは、明らかな気遣いだった。
 一瞬、私はしらばっくれようかと思った。でも、きっと、シロウはそれを望まない。普段は皮肉屋な彼だけれど、根はお人好しだし、私が彼に対して、しらばっくれたりなんてしたら、それこそ彼は自身の非だと思いこみかねない。
 私はあきらめた笑みを浮かべて、シロウを見あげた。
「大したことじゃないんだよ。ただ、ちょっと、英霊エミヤの過去を夢にみただけ」
 マスターとサーヴァントは、魔力供給というパスで繋がっている。だから、マスターがサーヴァントの生前の記憶を夢にみることは、そう珍しいことでもない――のだけれど、
「――そう、か」
 シロウは、どこか気まずそうに目を伏せて、できあがった朝食をテーブルに置いた。
「すまないな、いかな君といえど、自分が死ぬ姿など見ていて気分のいいものではなかっただろう?」
 自嘲気味に笑いながら、食事の支度を整えても、シロウは席につこうとはしない。そんな彼の様子を見て、私は困った笑みを浮かべるしかなかった。

「別に、シロウのせいじゃないんだけどね」
 と、そう呟いてから、私も、少しだけ目を伏せる。
「でもまあ、たしかに気分のいい夢じゃないよ。君をあんなに泣かせて――最終的に、英霊エミヤになるまで追い詰めて」

 生前、シロウは、死ぬ運命にある百人の命を救う奇跡を起こす代償として、死後に英霊となる契約を『世界』と交わした。けれど、その決断は、結果的に彼を苦しめ、その精神を磨耗させるものだと、私ならわかったはずだ。もしも、彼が『世界』と契約するとき、私が生きていれば、それは無茶だと言って、彼を止めることもできたかもしれない。
 そう思うと、自然と顔が下を向く。夢でみた彼の泣き顔を思い出して、ひどく気分が落ちこんだ。
 そんな私を見て、シロウがふと笑う。
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