第6章 エースの帰還
「ほ、ホントですかっ!?」
その日の放課後、職員室中に武田先生の大きな声が響いた。窓際の隅に座っている教頭先生がギロリと睨む。武田先生はそんな視線には気づかない様子で、電話を片手に会話を続ける。相手は受話器の向こう側にも関わらず、ペコペコとその場でお辞儀を繰り返す。
「えぇ、ありがとうございます!…はい、はいっ…!では、失礼します…!!」
丁寧に受話器を置いたあと、武田先生は興奮気味にこちらへ戻ってきた。私の前に来るなり、ブイサインを突き出す。
「やりましたよ、野村先生っ!!」
「えっ、な、何がですか!?」
「バレー部のGW合宿の最終日、他校との練習試合が組めたんです!!」
「あら武田先生、何か良い事でもありました?」
隣の席の米田先生が間に割って入る。
「えぇ!実は、烏野バレー部の因縁のライバル、音駒高校と練習試合をすることになりまして…」
「あら、音駒高校!懐かしいわねぇ…」
そう言って米田先生はニッコリと笑顔になる。初めて聞く学校名に、私は首を傾げた。
「音駒高校…?県内の学校…ではないですよね…」
「えぇ、東京の学校よ。ウチのバレー部と音駒高校は昔から監督同士が知り合いでね。それもあって両チームがライバル関係に発展して、“烏 対 猫のゴミ捨て場の決戦”なんて言われて、結構有名だったのよ」
米田先生が親切に解説を加えてくれた。
「そうなんです、最初は資金や時間の都合もあって断られてしまったんですが、無理を言って聞いてもらいまして…」
言いながら武田先生は恥ずかしそうに頭を掻いた。そして慌ただしく荷物をまとめ始める。
「…こうしちゃいられない!早速バレー部の皆に報告しないと…!」
「それじゃあ」と嬉しそうに職員室を飛び出した武田先生を追って、私は廊下で呼び止めた。
「…あの武田先生!」
「おや、野村先生どうしました?」